ソフトウェアサンプラーとトーンジェネレーター

MIDI打ち込みの究極形は二つあると思う。

一つは、打ち込みか生演奏か区別がつかない仕上がりになるもの。好ましくはオーケストラの質感や響き、音色の揺らぎといったものが表現できるのがよい。または、奏法に忠実なエレキギターのひずみや、ドラムの強弱など。これらは、つきつめていけばAという楽器で大きさB、引き方はCで余韻はDといった細かい指定に対し、その指定に応じた奏法を録音したものを使えばいい。それがアーティキュレーション(奏法)を有するソフトウェアサンプラーになる。

もう一つは、波形の重畳で完成する打ち込み特有のサウンド。今でも一部で好まれるFM音源や小室哲也、きゃりーぱみゅぱみゅの音もそれに近いだろう。生演奏ほどのリアルさや、ゆらぎもなく単調だが、繰り返しの整った波形はビートなどを刻むのに適し、それはそれでひとつの音楽のジャンルと言えるとおもう。シンセサイザーは、この音色を生むために作られた楽器と考えていいだろう。音色は、ごく短いサンプル音源と、多くの波形変調機能(発音、調整、フィルタ、エフェクタなど)から成る。YAMAHAの音源では、トーンジェネレーターと呼ばれる。

どちらが良いかといえば判断できない。ただ、ソフトウェアサンプラーはつきつめると生演奏に勝てない。ライブにいった人なら感じるとおもうが、生演奏にはその場にしかない独特の響きや空気感もある。それに近いものは作ることができる。うまくやれば、6畳間でオーケストラを組める。ただし、扱うサンプルの種類は莫大で、下手なフィルタやエフェクトをかけるよりは目的の奏法に則したサンプルを探すことになる。リアルな分、自己主張も強い。楽器同士は混じり辛い。名演奏と呼ばれるものは、この自己主張の強い楽器群が絶妙なバランスで交じり合い、ハーモニーを生み出している。しかしそれをリアルに表現しようとすればするほど、無限の量の波形録音サンプルが必要になってくる。総じてバランスは取りづらいが、本物を聞き込んでいる人ほどリアルなものが作れるだろう。

今回、EWQL シンフォニックオーケストラを買って、YAMAHAのトーンジェネレーターMOTIF RACK ESで作った曲と同じ曲を再構成した。一応完成はして、確かにリアルだったが、とにかくバランスがあまり良くない。本物オーケストラと比べたら少し単調で不自然、打ち込みに比べると自己主張が強く揺らぎすぎでまとまりがない。出来栄えについては作り方のノウハウもあるのだと思うが。

基本的にゲーム音楽から作曲の世界に突入した自分にとって、波形をコントロールできることは魅力的だ。ソフトウェアサンプラーは、波形にすでに「色」がついてしまっており、塗られてしまった色は加工できない。もちろん、トーンジェネレーターでもリアルさは追求するが、どちらかといえば全体を重ねたときの音色のバランスが重視される。どんなサンプルであっても、細かく波形を調整できる。それは現実と比べて多少チープであっても、「しっくりくる」音に感じる。

理科の先生が、音叉の音を出したときに「この音は波形としては綺麗だが、音色としては美しくない」と言ったのを覚えている。人間は、いろいろな波が交じり合った自然界に存在する音を好む。しかし、サイン波も決して悪くはない。時にはそういう絶対正確で揺らぎのないものが、心地よかったりもすると感じる。