高校1年か2年の時、同じ吹奏楽部の友達から1枚のMDを借りた。MDは最近はめっきり見なくなったが、カートリッジに文字を記載できる領域が狭く、そこにはAVANTIとだけ書かれていた。
このMDには、Giovanni Mirabassiというイタリアのピアニストの、16曲の珠玉のピアノ曲が収録されており、当時の私はこの曲群をMDデッキの機能でコピー(※当時のMDは、記録周波数が32kHzにダウンサンプリングされるため、MD自体の個人的なコピーは割と合法として扱われていた)して、のちに最も気に入っていた1曲目をアナログ録音でPCにWAVEファイルとして保存しておいた。大学2年くらいの頃の話だ。
社会人になり、AmazonでAVANTIのアルバムのことを調べていると、そこに収録されている曲は15曲だけであり、私がPCに保存した1曲目は、実はアルバム内の曲ではないことがわかった。最初、このAVANTIのシークレットトラック(リーフレットに記載されていないボーナストラック)なのかと思っていたが、それならばわざわざ1曲目に編集するのも変だし、このアルバムに追加トラックがあるという情報はなかった。MDを貸してくれた友人とは長く連絡を取っておらず、わざわざ聞くのも気が引けた。
しばらくの間、曲名すら不明だったが、Giovanni Mirabassiの別のアルバム Cantopiano を購入したとき、くだんの曲がこのアルバムの8曲目にある「La fleur du large」の別アレンジであることに気づいた。しかし当時、CDショップに行ってもほかのLa fleur du largeを収録しているGiovanni Mirabassiのディスクは見つけることができなかった。
時は2025年になり、どうしてもこの曲が気になった私は数時間かけてネットで情報を検索した末に、非売品の宣伝用アルバム「SKETCH MUSIC」の1曲目の可能性が高い(PCに収録した曲の再生時間が同じ)ことを突き止めた。最近便利になったオークションアプリで出品されているものを購入して、ついにCD音源としてのLa fleur du largeを手に入れることができた。
ミシェルカミロのOnFIreもすごいが、ピアノ1本であれば、この曲よりも美しい旋律を奏でる曲を私は知らない。そして、当時よりも鮮明な音質となった曲を聴きながら、一度探してあきらめたものが、時代が進んでからテクノロジーの力により手に入るようになることもあるのだなと、不思議な気持ちになった。