無駄な毎日を

 慌しく工事を進めるのは、来週から降りだす雪に備えてだろうか。百万石の名を冠した並木通りは、夜も雨。人通りは少ない。
 通りがかる私の横断歩道が無いという会話を聞いたか、工事の人が仮の歩道のところへ先回りして誘導する仕草を見せた。傘を持たなかった私は地下道を通って渡りたかった。そして何も言わずその場を通り過ぎてしまった。ここで一言、何か言っておけばよかったが、こういうときにいつも勇気が出ない。どこかにブリンクはいないものか。
 街から賑わいが無くなってしまった、と教授は言う。かつて、教授が私と同じ年の頃は、城址に大学があった。当時の賑わいはもう無いと、母親も言っていた記憶がある。しかし私にとって、あまり人のいない街の顔は見慣れたものだった。とにかく、街は変わったのだ。昔は人がいて、今は少なくなった。寮の仲間と歌を歌いながら下駄で街を闊歩した教授には、この変化は大きくうつったのだろう。何気ないことだが、大切なように思う。私が得られない経験を、教授から、一つ、得たのだ。
 無駄な毎日を送っている。昔はもっと高いところを目指していた気がする。今は何かマンネリ化したような感じだ。そんなことを、最近思うことがあった。しかし、ちょっと目を向ければ感じ取るべきものは五万とある。面倒だと思ったものも、少し見方ややり方を変えれば興味深いものに化ける。無駄なものなど何一つ無いのではないだろうか。死ぬ思いで働いた一日も、だらけて過ごした1ヶ月も、天秤にかけることのできない経験なのではないだろうか。どうだろう。

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