ユニコ 魔法の島へ

kazamit2006-09-01

 恐怖の型抜き人形――幼少時代にその強い印象が頭から離れず、とにかく怖いアニメ映画だったということしか覚えていなかった作品「ユニコ 魔法の島へ」。手塚治虫原作のこのアニメを、十数年ぶりに鑑賞することが叶った。
 まず目に付くのは古い映画であるにも関わらず、繊細で、そして今回はSF的な描写も含んだ美麗な画像だった。背景や風景もさながら、キャラクターの動きは非常にリアルで全ての部分において手を抜かずに作られていた。製作期間は2年という。さらにこの映画は音楽との調和も見逃せない。前作のユニコではセリフから間髪入れずに歌に入るという妙技が見られたが、今回も音楽に合わせて猫が踊り、動物が動き、イキニンギョウが行進した。合わせた、という感は無く、見事に調和していて驚いた。
 今回わざわざこの映画DVDを買ったのは、この映画が(手塚治虫が)何を言わんとしているのか確かめたいという目的があった。しかし見終わってみて、それを一言で語るのは非常に難しい。どの描写・言動も一つ一つが深く、重い意味合いが込められていた。
 一つ思ったのは、この映画は子供の時に見ても怖さを植え付けるだけのようだということだ。ユニコは子供の心につながる「純粋」さをかたどっていて、EDテーマでもわかるように大人になって子供の心を忘れていないか、ということを考えさせるということが全体を通してのテーマの一つであるように思う。ストーリーを見るとかなり痛烈だ。しかしそんな中で、キャラクターは恐怖に囚われず自分の気持ちを前面に出している。ユニコはもとより、猫も、ヒロインも、子役も悪役もそうだった。そういう点でも、人間は様々な事柄に対して歪んだ見方をすることに、この社会の中で慣れてしまっていたのかもしれない。物語の中で不可能を可能にし、内面を問い掛けるキャラクター達には、理屈抜きに何かを考えさせられる力があった。純粋な心を持った子供にとっては当たり前のことを、大人になってかなり忘れてしまっていることを実感できる。それだけのことを引き出す力が、手塚治虫氏にはあるように思う。
「冷たく張り詰めた憎しみの思いが、優しい言葉で溶けてしまう」
 何気ないセリフだったが、ここまでの表現はなかなか出来ないものではないかと感じた。

さすがだった。

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