2007年の

 私の家の近くには、草木が生い茂った少し広めの敷地を持つお寺があった。そこは大都市の中で進められた緑化計画区の一つというよりは、たまたまそこだけが昔のままに放置されて草木が伸び放題になった場所、と言ったほうが近かった。木と呼ぶにはまだ背が低いものや、草にしては私の腰あたりまであるようなものもあった。
 学校の帰りで、自転車に乗っているときはいつもその場所の近くを通った。バスは遠回りで、いつも無駄な時間がかかる。自転車に乗ったときだけに通ることができるショートカットの一つだった。
 それは、ある秋に近い日の夕方だった。夕日が雲の間からさしており、もうすぐ消え行く頃。私は何気なくその寺の草むらの中を歩いていた。すると妙な生き物が足元にうずくまっているのを見つけた。一見テン?ミンク?のような、白と灰色の中間の色の毛がふさふさについている生き物だった。小さくて、まだ子供のように見えた。弱っているようだったので、とりあえずしゃがんで抱えてみた。もしかしたら怯えていただけかもしれない。そして立ち上がったとき、近くにもう一匹いるのが見えた。そっちはどうも元気なようで、私に気づくとそそくさと草むらのなかに走っていった。
 そうやってぼけっと立っていると、真横から腕に向かって突然何かに体当たりを食らった。かなり強力だったので私は地面に倒れこんでしまった。見るとさっきの動物の一回りでかいバージョンがこっちを見ていた。どうやら親のようだった。私は抱えていた小さいほうを放して、敵意が無いことを示すために何かしないといけないと思ったが、とっさなことで何も思いつかなかったので、座ったままの体勢でかなり後ずさりした。よくよく思えば動物相手にマヌケな光景だ。
 相手もなんとか引いてくれたらしく、子供のほうも親に寄り添っていた。私は何を思ったか
「ずっとここにいるのか?」
 とそのテンのようなものに向かって話しかけていた。するとテンは、
「向こうにも舗装されていない場所があったが、草が少なくて安心できない。ここくらいしかいい場所がない」
 と、言ったような気がした。というか、確かに言った。私の家で飼えないかなあと思ったが、マンションではペットも飼えない上に草もない。あまりいい環境では無いように思えた。
 とりあえず私はその寺の敷地内をテンと一緒に歩きつつ、何か内容の薄い会話をした。内容が薄かったのよく覚えていないが、その間に日は暮れていった。
「バスじゃない日はこっちに来れるので、そのときに呼んだらまたきてくれよ」
 と最後に言うと、テンのほうはアーチになっている木の枝の上からぶら下がって。
「バスばかり使っていると足がなまるぞ。毎日自転車で通うようにすればよいものを」
 と言うようなことを言った。まるで私の心を見透かされているようだ。とにかく、そこで私は自転車に乗って帰ろうとした。だが、近くに妙な作業服を着た男が数人たむろしていて、道をふさいでいた。とりあえずやり過ごそうと思ったら無理だった。
「君、さっきの動物と何か話をしていなかったか?」
「いや、そんなことは」
 リーダー格と思われる白髪でガタイのいい男が私のほうに近寄ってきた。
「私たちは遠巻きに見ていたんだが、一体どうやって会話をしたのかね。おい、ちょっとさっきの動物を探して来い」
「わかりました」
 指示された男は草むらの中に走っていった。
「あの動物はねえ、稀少なんだよ。君もちょっと協力してくれたほうがいいとおもうがね」
 ますます怪しいと私は思ったので、黙秘権を行使することにした。しかしその大男に胸倉をつかまれた。大男はあろうことか、何か小型のドリルのようなものを左眼から取り出した!どうしてそんなところに。
「君が会話できるのはそういう特性があるのかもしれん。少しDNAをもらっていくとしよう」
 そういって下の前歯を一部ドリルでガリガリ削られた。歯医者の要領だった。削られてサンプルを収集されたあとは地面に投げられた。そしてさっきの下っ端の男が戻ってきた。
「いたか」
「見つかりません」
 どうやらテンは上手く逃げたようだった。大柄な男は不満そうな顔をしていたが、そのまま部下を従えて立ち去っていった。

 
 次の朝、私は先輩に手伝ってもらって、そのお寺の持ち主および町内の人何人かと話し合いを開いた。お寺の持ち主の人は、前々からこういうことには詳しく、いろいろな話を聞いていたものだ。場所はお寺の近くだったが、私が草むらでテンを呼ぶと、子供を従えてすぐに私のところへ来た。お寺の持ち主の人が、口を開いた。
「前、戦争があったときにこういうことが言われていただろう。2001年の******(〜に近いという意味の英語の慣用句)というのを少し入れ替えると、何かその、■■■(?よく聞き取れない)になると」
 そういうと、近くにいた女の人が頷いて言った。
「ああ、なるほど。それじゃあそこの動物の名前の意味である2007年の*******っていうのは、それの2007年版を意味しているってことね」
 私も少し考えた。ん?どういう入れ替えだろう。2007年の部分も英語に直さないといけないのだろうか。私以外の人はその出来事をよく知っていて、もう納得しているようだったが、私は考えてもよくわからなかったのだ。

 
 という夢を見た。

23:42