アンバランスな青空

 金沢は雨が多い。それが金沢を象徴しているとも言われる。
 雨の日は好きではない。雨は、自分を憂鬱にする。それはよく言われることでもあったが、悪いことが起こった後には決まって雨が降った。だから雨はあまり好きではない。
 しかし今日は晴れた。昨日まで悪いことが立て続けに起こって、天気も悪かったが今日は雲も少なく日差しも暖かかった。
 数ヶ月ぶりに自転車を出した。駐輪場の屋根には、まだ雪が残っていた。雪解けの雫が、駐輪場のあちこちに小さな水溜りを作っていた。その水溜りも青空を映す。雨が降った後、突然晴れることも多い金沢ではよくある光景だった。
 自転車は、長い間放置したため、空気が抜けていた。祖父母の家で空気を補充した。祖父は本を読んでいた。空気を入れたあとすぐに学校へ向かったが、大きな壁にぶつかったときはどうすればよいか、と祖父に聞いておくべきだと後で思った。そしてそう尋ねたとき、祖父は一体何と答えるだろうか?それを考えながらペダルを漕いだ。
 白に染まった白山の山頂が、見事に視界にあった。一昨年の9月は、自らの足であの場所まで登ったのかと思うと、奇妙な気分になった。自分はあの登山で何を得たのか。
 途中、いつも通る道が完全に雪に埋もれていた。別の道を選んだが、途中からは、雪の上を自転車を押していくしかなかった。自転車が作る独特の轍もほとんど見られない。この道を、今日自転車で通る人は少ないようだ。そういう意味で自分は一時的に奇特な存在であるのか。雪の積もった坂を降りてくる下校途中の小学生や、犬の散歩をしているおばさんとすれ違いながら、坂を登った。
 まだ気持ちは安定しない。夢を絶たれるということは、失恋に似た(実際、失恋と呼ばれるような大きな衝撃を受けた経験はないかもしれないが)ものがあるように感じた。それなのに、今日は晴れた。霊峰の山頂が見えた。日本一曇りと雷が多いこの場所で雲ひとつ無かった。マイナス志向にマイナスを掛けてプラスに転じさせようというのか。かつて大きな虹を見た日も、同じような心境だったように思う。その日も、確か自転車を押していた。
 今日の青空はアンバランスだった。

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